専門医コラム

2015/07/04

意外な「薬」で意外な「副作用」、胃薬で心臓発作、風邪薬で認知症など注意!

1600万件のデータを分析

このたび米国スタンフォード大学を中心とした研究グループから出された研究報告は世界的に注目された研究の一つです。

Some heartburn drugs may boost risk of heart attack, study finds

 http://med.stanford.edu/news/all-news/2015/06/some-heartburn-drugs-may-boost-risk-of-heart-attack-study-finds.html

胃薬で、胃酸の出すぎを抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)と呼ばれる薬で、一見、全く関係のない心筋梗塞が2割も増えると裏付けられたというのです。

オンライン科学誌であるプロスワン(PLoS ONE)誌でも2015年6月10日に報告されました。

Shah NH et al. Proton Pump Inhibitor Usage and the Risk of Myocardial Infarction in the General Population. PLoS One. 2015 Jun 10;10:e0124653.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26061035

「データマイニング」と呼ばれる手法で、1600万件もの大量の情報から関連性を抽出していく研究のなかから判明したのです。

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心臓の血管が詰まる

一見関係がないとはいえ、従来、危険性がある可能性をうかがわせる情報はありました。

プロトンポンプ阻害薬を使っていると、「急性冠症候群」の起きた後に問題になることがあったからです。急性冠症候群とは、心臓に血流を供給する血管である冠動脈が狭くなったり、詰まったりする病気。血液を固まりにくくする薬である「抗血小板薬」を使っている人で病気の再発といったトラブルが起きやすくなると報告されていました。

さらに、心臓の健康な人でも潜在的にリスクがあるのではないかと疑われており、今回の研究は大量の医療データを解析して、関連性を分析したのです。

心臓や血管関係の死亡は2倍に

結果として、胃食道逆流疾患(GERD)と呼ばれる、いわゆる「胸焼け」のためにプロトンポンプ阻害薬を使っている人で、心筋梗塞が1.16倍に増えていると判明しました。

追跡調査によって生存との関係を調べると、心臓や血管の病気によって死亡する人の割合が2倍にも高まっていることも分かりました。

かねて抗血小板薬のクロピドグレルの使用と関係があると報告されていたのですが、今回の分析の結果ではこのクロピドグレルという薬とは無関係に病気や病気による死亡の増加は確認されました。

同じ胃薬のH2ブロッカーでは同じような問題は起きていません。

胃で細菌が増える報告も

プロトンポンプ阻害薬も含めた胃薬では胃の細菌が増えるといった現象も副作用と言えそうです。

2014年8月には子どもの胃の中の細菌を増やすと報告されました。胃から口へと逆流して、肺炎のような問題を起こす可能性を指摘しています。

Rosen R et al.Changes in Gastric and Lung Microflora With Acid Suppression: Acid Suppression and Bacterial Growth.JAMA Pediatr.2014 Aug 18[Epub ahead of print]

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25133779

子どもを対象として検証したところ、胃酸を抑える薬を使っていると、使わない場合よりも、胃の中で細菌が増えていると確認。胃液の中に「ブドウ球菌」や「連鎖球菌」といった細菌が増えていました。胃から食道への逆流が起こって、肺の細菌も増えるとも分かりました。

風邪薬も含めた薬も問題に

今年は、ごく身近な風邪薬のような薬でアルツハイマー病をはじめ認知症のリスクを高めるという報告も注目されました。

抗コリン作用と呼ばれる効果を持つ薬で、総合感冒薬や鼻炎薬、胃腸薬、一部の抗精神病薬、抗うつ薬などが関係しています。神経伝達のために体内で一般的に働いている「アセチルコリン」を阻害する薬です。

65歳以上の3000人以上を平均7年以上にわたって追跡調査したところ、10年間の期間の中で、標準的な1日の用量を91日分から365日分使っていると危険度は1.19倍。さらに366日から1095日使った場合1.23倍、1096日を超えると1.54倍と危険度が高まるという結果が出たのです。

Gray SL et al.Cumulative Use of Strong Anticholinergics and Incident Dementia: A Prospective Cohort Study.JAMA Intern Med. 2015 Jan 26  [Epub ahead of print]

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25621434

1年間のうちで9日くらい関係した薬を飲んでいる人から影響し、幅広い人に関係する可能性もあり大きく注目されました。

苦痛を取る目的で、必要な場合には薬は強力なサポートになるとはいえ、必要以上に使わないよう、あるいは必要がないときには使わないよう注意が必要です。

私が必要時の苦痛を軽減するためには薬を処方しますが、症状が軽減すれば、原因を治療する対応を一人一人にご案内するのはこの副作用の問題に注視しているからです。病気は原因の対応が重要なのは言うまでもありません。しかし、保険診療では対症療法が主体で、『原因対応』は多くの場合出来ていません

当院のアレルギー科は眼科の疾患も、病気の原因対応の必要を考えて根治を目的に治療を提案しております。その場限りの治療ではなく、原因対応を行う事で、将来の病気の発症を抑える事も可能となるのです。

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