専門医コラム
2015/06/07
糖尿病網膜症に光明、「ANGPTL4」というタンパク質のブロックに効果
糖尿病網膜症は日本の失明疾患の上位の原因です。現在では緑内障が日本の中途失明原因の第一位ですが、緑内障に抜かれるまでは糖尿病網膜症が第一位でした。
今回はこの糖尿病網膜症でお悩みの方へ、新しい治療をご紹介したいと思います。
これま糖尿病網膜症で標的とされた「VEGF(血管内皮成長因子)」と呼ばれる仕組みのほかに、さらに、血管を作り出して目のダメージを広げる要因として「ANGPTL4(アンジオポイエチン様4)」というタンパク質も関係していると分かりました。
糖尿病の半数近くに網膜症
米国のジョンズ・ホプキンス大学の研究グループが、米国科学アカデミー紀要のオンライン版で、2015年5月26日に報告しました。
糖尿病性網膜症という病気は、先に述べたように働く年齢の成人では失明の主因となっています。米国では、糖尿病になった人の40〜45%が、糖尿病性網膜症を起こしていると報告されています。
糖尿病性網膜症では、目の中の正常な血管がもろくなり、目の中に血液の成分が漏れたり、出血したりします。漏れた血液成分が、光を感じ取る網膜を傷付け、失明につながります。
最近開発されている薬は、血管の形成を促す成長因子であるVEGFという名前のタンパク質の活動をブロックして、糖尿病性網膜症になることを遅らせようする働きです。
網膜症の主要な問題である黄斑浮腫をめぐって、新たに「PKal(血漿カリクレインキニン)」と呼ばれる仕組みによって問題が起きていると判明しています。(糖尿病黄斑浮腫に、これまで知られていなかった原因、「PKal」と呼ばれる仕組み)。
この報告によると、PKalは網膜の血管から血液の成分が漏れ出す原因になっていると考えられます。
今回の報告では、また別のアプローチから糖尿病性網膜症の症状を阻止する手がかりが突き止められています。
第2の血管成長因子
健康な人、糖尿病だが網膜症にはなっていない人、糖尿病性網膜症の人などから目の液体成分を収集。VEGFのレベルを調べました。
糖尿病性網膜症の人では、VEGFのレベルが高い傾向はあったが、中には健康な人よりも低いレベルの人もいました。
VEGFの他にも血管を成長させる因子があると考えて分析したところ、アンジオポイエチン様4というタンパク質が見つかりました。
この第2の血管成長因子は、アンジオポイエチン様4というタンパク質で、英語の略称ではANGPTL4となります。
ANGPTL4は糖尿病性網膜症の目の液体成分に多く含まれ、VEGFのレベルと無関係に増減していました。しかも網膜の新しい病的血管が作られた場所に集中していたのです。
2つのブロックで防止可能
ANGPTL4とVEGFの両方をブロックすると、細胞の中の血管の成長が著しく減退するという結果が認められました。目にダメージを与える余計な血管の増加を防ぐことができる可能性があるのです。
第2のタンパク質ANGPTL4の作用を安全にブロックできる薬が見つかれば、VEGFと組み合わせて使用して、多くの網膜症を防止可能と、考えられます。
房水中のANGPTL4が、糖尿病による目の病気の治療法のためのバイオマーカーとして使えるのではないかとも指摘されています。
しかしどのような治療法が見つかろうとも対処療法の域を出ません。根本的に糖尿病にならない予防が大切ですし、糖尿病になってしまった場合は、どうして糖尿病になったか、原因を止めれば以前の状態に戻る事が出来るはずです。
自分の身体の病気は、自分の免疫力で回復する必要があると言う事です。
ANGPTL4についての論文は以下をご参照下さい。
http://www.pnas.org/content/early/2015/05/20/1423765112.abstract