専門医コラム

2015/06/25

慢性のかゆみに悩む人に朗報、かゆみを促進する遺伝子を発見

d5c9a17d0e444500b5289224cb8a50b3_s

強いかゆみのもとを検証

今年の6月は、思いの外、アレルギー症状が強くなる患者さんがたくさんご来院されました。目をこすりすぎて、目の周りの皮膚が炎症を起こす、眼瞼皮膚炎を起こしていたからが大勢おられました。 皮膚炎は、慢性の痛みと同じくらい生活の質を損ないますね。ところが、慢性的な辛いかゆみに対しては、どの薬を使ってもかゆみが治まらない場合が多いのです。。

今回、米国カリフォルニア大学バークレー校とバック加齢研究所の研究グループが、強い痒みの原因物質を検証し、神経科学分野の科学誌ニューロン誌オンライン版で2015年6月11日に報告しました。

この研究グループは、ネズミを使った実験で、最も強いかゆみがあると判断できたネズミの神経細胞を使ってかゆみによる差を検証しました。

「幸せホルモン」かえってかゆくする

結果として脳では幸せホルモンとも言われることもあるホルモン、セロトニンを受け取る受容体「HTR7」が遺伝的にほかと比べて多く働いていることを発見しました。

セロトニンの受容体であるHTR7があると好ましいどころか、皮膚への刺激が問題となっているという結果です。

さらなる実験を進めたところ、慢性的なかゆみでHTR7が果たしている役割を確認したのです。

手足など末梢の神経にあるHTR7の働きが活発になると、かゆみを強く起こしていると分かりました。かねて異常なセロトニンの信号伝達は、湿疹を含むかゆみを起こす原因になると知られていましたが、まさにその通りになっていたことが証明されました。ただし、痛みを起こすことはありませんでした。

かゆみにスイッチ入れる「HTR7」

HTR7はセロトニンの影響を受けると、炎症につながる細胞の内外でイオンをやり取りする仕組みである「イオンチャンネル」の働きを促す。「TRPA1」という名前のイオンチャンネルとなります。

セロトニンのほか、うつ病の薬として知られるセロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)によって、神経でセロトニンが増えてくると、こうしたHTR7とTRPA1の連携によってかゆみが起こってくると考えられます。

新たな治療薬の可能性も

治療の観点から見ると、HTR7とTRPA1がないと、アトピー性皮膚炎の発症を軽くできることになります。

今回の研究から、急性および慢性のかゆみにHTR7が大きく関わっていると考えられます。ここからHTR7を阻害する薬が出来れば、さまざまな難治性のかゆみの解決につながりそうです。

原因治療が重要!!

とはいえ、痒みを一時的に抑える対症療法ではあるので、かゆみが強く出る体質になった原因治療が重要です。薬で痒みを抑えていても、治した事にはなりません。薬を使い続ければ薬の副作用も出てくる事でしょう。また、かゆみとは免疫力の問題でもあり、原因の対応をしなければいずれはもっと大きな全身の病気へと発展する可能性が残ります。遺伝子のせいだから、と諦める必要はありません。遺伝子も変えられるのですから!

日本人の半数以上が生涯のうちに『ガン』の診断を受けていると言う事実があります。例えば、『かゆみ』という身体のサインが出て来た際に原因を見つけて対応しておく、即ち免疫力を改善する事になり、ガンの予防にも繋がります。

どのような対応が必要か、当院のアレルギー科での治療方針は原因治療なのです。

当院のアレルギー科

<文献>

Serotonin receptor is involved in eczema and other itch conditions

http://www.buckinstitute.org/buck-news/serotonin-receptor-involved-eczema-and-other-itch-conditions

Morita T et al.HTR7 Mediates Serotonergic Acute and Chronic Itch.Neuron. 2015 Jun 9. [Epub ahead of print]

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26074006

ページのトップへ