専門医コラム

2015/07/16

「マクロライド系抗生物質」の過剰使用に注意、体重増加と腸内フローラへの影響

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子どもへの使用を想定した動物実験で問題を指摘

一般に使われている抗菌薬、いわゆる抗生物質の使用が子どもの発達に影響を与えかねないと報告されています。

子どもへの使用を想定した動物実験で、体重増加や腸内フローラへの変化が確認されたのです。

体重や骨の成長に影響あり

米国のニューヨーク大学の研究グループが、有力科学誌ネイチャー誌の姉妹誌で、オンライン科学誌であるネイチャー・コミュニケーションズ誌に6月30日に報告しました。

New Study in Mice from NYU Langone Medical Center Finds Multiple, Long-Lasting Effects after Several Courses of Antibiotics Commonly Used in Children. NYU Langone Medical Center July 1, 2015

http://nyulangone.org/press-releases/repeated-courses-of-antibiotics-may-profoundly-alter-childrens-development

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26123276

この研究では抗生物質をメスのネズミに与えて、影響を調べました。

検証対象となったのは、幅広い病原体に効果を示す抗生物質「アモキシシリン」、小児科で一般化しつつある抗生物質「マクロライド」の仲間である「タイロシン」。あるいは両方の薬の混合した薬。

人に置き換えたときに、平均的な子どもが最初の2年間に受けるのと同水準になるように調整して与えました。

研究グループが調べたところ、タイロシンについては多めの量で何度も使うと、体重を増やす影響が出てくると分かりました。

一方のアモキシシリンは、骨を成長させると分かりました。

腸内フローラを変える

腸内フローラは、腸内細菌叢やマイクロバイオームなどとも呼ばれます。叢は草むらの意味、フローラは花畑の意味で、さまざまな腸内細菌が集まっている状態を表しています。

細菌にとどまらない微生物の集まりとして微生物叢とも呼ばれます。

この報告では変わった表現をしており、『大部分の住民が農民であった国が、急に商人の国になったようなもの』と言っています。微生物の集まりの内訳が一変したところを表しており、抗生物質を使うと、微生物の量、種類、共同体の状態などが大きく変わるのです。

特にタイロシンを使ったときに、アモキシシリンよりも微生物叢の充実に大きな影響を与えていました。抗生物質を使うたびに微生物叢の充実へのプロセスが邪魔されていました。

高脂肪食への対応ができず

この微生物叢の変化が肥満とも関係している可能性もあるようです。

抗生物質にさらされて微生物叢が変わると、環境の変化への適応能力が落ちていました。

高脂肪食を食べさせると、微生物叢は本来適応して変化するところ、抗生物質を受けている場合にはうまく適用できなくなっていました。

抗生物質にさらされていない場合には、新しい環境に1日で適応したのに対して、アモキシシリンで治療を受けたネズミでは微生物叢の一部は1日でシフトしたが、全体で見ると2週間がかかって適応していました。

それに反してタイロシンで治療を受けていた場合には、全体が適応するのに1カ月かかったのです。

マクロライド系に「心配」

この報告では、タイロシンの体重増加と微生物叢への強い影響が特に心配であると指摘しています。

日本でも子どもへのマクロライド系の抗生物質の処方は増えており、こうした研究は動物実験とはいえ、注意しておきたいですね。無意味に長期にわたって薬を使うのは避けた方がよいと言う考えで、私はなるべく抗生物質の内服使用は最小限にするように勤めています。

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