専門医コラム
2015/08/06
我々は脳でものを見ている 近視治療に必須!
拙著『子ども視力回復トレーニング』に ”我々は脳でものを見ている” という項目で以下のように記載しました。
『映像情報を脳で処理する過程を経てから、私たちは視覚を感じているからです。言い換えてみれば、私たちが「見た」と思っている世界は、真実の姿ではなく脳で作られた姿と言えます。脳で画像処理をしたものを、「見た」と信じているのです。』
近視の対応には脳を鍛える事も必要だと私は考えています。
最近、以下のような報告がされました。
Seeing Is Believing. How brains make sense of the visual world
http://hms.harvard.edu/news/seeing-believing
Smolyanskaya A et al. A Modality-Specific Feedforward Component of Choice-Related Activity in MT. Neuron. 2015 Jul 1; 87(1):208-19.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26139374
脳の中で奥行きを感じる信号を遮断した実験から、目から捉えた動きの情報から脳がより複雑な情報を引き出しているようだとの研究報告です。
目で捉えたものを脳が認識する仕組み
人は目で捉えたものを、脳によって認識することではじめて「見た」と感じられます。目で見えることと認識できることは別の能力である、という報告もあります。この点は次号でご紹介しようと思います。
脳は、目に見えた画像を知識と経験に基づいて処理している
最近では当たり前になりつつある3Dの映画などは、左右の目から見たように、2つの画像を目に映し出して、脳に奥行きを認識させます。脳の中で立体像が合成されて、立体感が埋めれるのです。
奥行きを感じる神経経路を遮断
眼から入った視覚情報が脳のどの領域の神経細胞へ送られるかは細かく調べられています。
脳の「MT野」と呼ばれる領域の中で、見たものの動きを感じ取る。下ではなく上、左ではなく右のほか、方向ごとに別の神経細胞が動きを検出し、相対的な奥行きも感じることができます。
すでに以前の研究で、方向の感覚に影響を与えずに、深さに関する感覚だけを妨害できる方法が見つかっていました。
その手技を利用して、今回サルによる動物実験に取り組んだのです。サルは画面に映った白い点の動きを追うように訓練されていました。モニター上に白い点を映し出し、白い点をさまざまな方向に動かしました。その上で、サルの脳内の特定の神経細胞を冷やして、奥行きについての情報を感じる経路だけを一時的に遮断しました。
感覚一つも異なる要素から判断
サルは奥行きをほとんど感じないはずだったが、奥行きを感じることができたのです。白い点が横に並んだり、前に来たり奥にひっこんだりするのに合わせて目を動かしていました。動きを検出する能力について、ほとんど影響されていないように見えたと報告しています。
脳は方向と奥行きを別々に感じつつも、左右、上下といった動きの情報からも奥行き情報を感じ取る仕組みがあると報告では説明されています。
奥行きという感覚一つをとっても、異なる要素から把握して、お互いに補い合いながら複雑な処理を可能にしていると考えられます。
目と脳の素晴らしい連携プレーがあって我々の視覚が成り立っているのです。近視についても眼球だけの問題と捉えてトレーニングをするだけでは片手落ちと私が考えるのはこのためです。
脳でものを見ている、この点を重ねて強調したいと思います!!