専門医コラム

2015/09/21

牛乳と骨粗鬆症②

ソフトクリーム

加齢に伴う骨量の減少は日本人よりイギリス人の方が急速

Dennison E, Yoshimura N, Hashimoto T, Cooper C. Bone loss in Great Britain and Japan: a comparative longitudinal study. Bone 23:379-82, 1998.

こちらはイギリスと日本で骨量と骨折(大腿骨頚部骨折)を比較した疫学研究です。この研究は、ハートフォードシャーの男172人および女143人と和歌山県太地の男86人および女90人について、体格、骨量(大腿骨頚部と腰椎)、生活習慣(飲酒、喫煙、カルシウム摂取量、屋外活動)などを比較したものです。イギリスでは4年後、日本では3年後に再検査して加齢による骨量変化を比較しました。初回測定の骨量は男女ともにイギリス人の方が多かったのですが、骨量の1年当たりの減少率は男女ともにイギリス人の方が大きいという結果でした。イギリス人の骨量は、日本人に比べて、加齢とともに急速に減少するということが推察されました。この傾向はとくにイギリス人女性で顕著に認められました。この研究では、男女とも、体格(BMI)はイギリス人の方が大きく、屋外運動量もイギリス人の方が多かったのです。体格が大きく、運動量が多いということは骨量減少の予防に役立つはずです。それにもかかわらず、加齢に伴う骨量の減少はイギリス人の方がより急速でした。乳糖に対する分解酵素の人種による違いを以前のコラムで報告(ヨーグルト、チーズと白内障)しましたが、牛乳の飲める西洋人(乳糖分解酵素活性持続症)においても、牛乳は骨粗鬆症を予防できないと考えられました。

牛乳(=カルシウム)を多く摂取する国ほど骨粗鬆症による骨折が多いというカルシウム・パラドックス

Owusu W, Willett WC, Feskanixh D, Ascherio A, Spiegelman D, Colditz GA. Calcium intake and the incidence of forearm and hip fractures among men. Journal of Nutrition 127: 1782-1787, 1997.

Feskanich D, Willett WC, Stampfer MJ, Golditz GA. Milk, dietary calcium and bone fractures in women: a 12-year prospective study. American Journal of Public Health 87: 992-997, 1997.

牛乳を飲んでも骨粗鬆症の予防にならないことはアメリカで行われた上記大規模疫学調査においても確認されています。そのためアメリカでは、1998年から、「骨粗鬆症の予防に牛乳を」というコマーシャルがメデイアから消えたのです。日本でも2003年から骨粗鬆症に絡めた牛乳の宣伝が行われなくなったことにお気付きの方もいると思います。ただ、日本の場合は理由が明らかでなく、5年遅れでアメリカに追随したことになるりますが、おそらく厚生労働省が酪農業界と乳製品業界に自粛を要請したのではないでしょうか。

(次回に続きます)

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