専門医コラム

2016/01/11

夜間頻尿の人は死亡率が約2倍 眼科疾患との関連は?

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尿について

尿は、血液中の有害物質や新陳代謝で発生した老廃物質などを体外へ捨てるために、腎臓が濾過・産出する液体排泄物。尿管を経て膀胱にたまり、尿道口から排出されます。濾過・産出量は1時間当たり60~120mℓ、1日約1.5ℓ。膀胱の容量は、成人で平均500mℓ。日本人の80年間の排尿量はおよそ35tにも及びます。

膀胱に150~200mℓの尿がたまると、粘膜(移行上皮)で覆われている膀胱壁が刺激を受けます。その結果、脊髄から排尿中枢を伝って大脳に信号が送られて尿意を催すのです。尿意を感じても、膀胱が膨らむので、大脳は尿意をコントロールできます。ですが、尿量が300~500mℓを超えるとがまんできなくなるため、膀胱反射中枢の命令によって膀胱がしぼみ、尿道が緩んで尿が出ます。

尿は約98%が水。タンパク質の代謝で生じた尿素約2%のほか、微量の塩素、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、リン酸をはじめ、クレアチニン、尿酸、アンモニア、ホルモンなどを含みます。色は黄色(ウロビリン)です。水分が不足すれば褐色やオレンジ色、短時間に大量に水を摂れば無色。腎臓が健康なら排泄までは無菌ですが、排泄後は時間が経つと尿素が分解されてアンモニア臭を発生することは皆さんご存知と思います。健康な尿はph5.86の弱酸性です。

夜中に3回以上トイレに起きる夜間頻尿は寿命を左右する!?

就寝中に何回トイレに行くのでしょうか? 40歳以上の男女約4500万人は、夜間1回以上。3回以上トイレに起きる夜間頻尿は、60~70代では男性の30%、女性の15%と報告されています。

夜間頻尿は、夜間の尿量が多くなる夜間多尿、少量しか膀胱に溜められなくなる膀胱容量の減少、眠れない睡眠障害などが原因で起こります。

夜間多尿は、水分の摂り過ぎのほか、糖尿病、高血圧、うっ血性心不全、腎機能障害、睡眠時無呼吸症候群などの疾患が誘因になることが多いので注意が必要です。

膀胱容量の減少は、過活動膀胱、前立腺炎、膀胱炎などで膀胱が過敏になるために起こります

過活動膀胱は、パーキンソン病などで膀胱のコントロールが効かなくなり、少量の尿が溜まると膀胱が勝手に収縮する病気です。脳卒中や前立腺肥大症の排尿障害によって、膀胱が過敏になっても発症します。膀胱の老化現象が多いのですが、原因が不明の場合も少なくないので、年齢性別を問わず要注意です。

睡眠障害は、眠りが浅くすぐ目が覚めてしまうために、目が覚めるごとに気になってトイレに行く症状です。

20~30代でも必ず夜中にトイレに行く人は、眠っている間に呼吸が止まる睡眠時無呼吸症候群(SAS/スリープ・アプニア・シンドローム)の可能性があります。睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中の無呼吸(10秒以上の呼吸の停止)による酸欠状態が1時間に5回以上発生し、昼間の眠気など様々な症状を伴う病気です。簡単な「寝るだけ口テープ法」で改善する場合が多いので、気になる方は是非お試しください。

また、夜中のオシッコは、日中よりも尿量が少ないのが普通ですが、糖尿病、心臓病、腎臓病などのリスクファクターが高まると、尿量が増えるために、夜間頻尿になりやすい傾向があります。

順天堂大学の堀江重郎教授によれば、北欧の高齢者グループを4年間追跡調査したところ、夜間頻尿の人は、そうでない人よりも約2倍も死亡率が高かったという結果が報告されています。夜中にトイレに行く回数が少ないほうが長生きしやすい、つまり、夜間頻尿は寿命に関連する事実を示すひとつのデータとなっています。

尿と病気の因果関係は、実に多様です。夜間頻尿だけでなく、自分の意思とは関係なく漏らす尿失禁のほか、尿道が緩くなる尿道括約筋不全、前立腺が大きくなって尿道を圧迫する前立腺肥大症など、さまざまな排尿機能障害があります。尿は、動脈硬化、糖尿病、高血圧、うつ病、ストレスなどとの関連が深いことが分かっています。

ここから眼疾患との関連が推測されます。

動脈硬化や高血圧は比較的高齢者に多い網膜静脈閉塞症、糖尿病は糖尿病網膜症など、夜間頻尿は失明疾患のサインとなっている可能性があります。

東洋医学的考え方

東洋医学の考え方は西洋医学と異なり、”証” と言って患者さんの体質的な診断を行います。例えば、頻尿の証の一つに「腎陽虚(じんようきょ)」証があります。

成長・発育・生殖および水液や骨をつかさどる五臓の腎の陽気が不足している体質です。陽気とは気(身体を流れるエネルギー)のことで、人体の構成成分を陰陽に分けて考える場合、陰液と対比させて陽気と呼びます。老化や慢性疾患により人体の機能が衰えて冷えが生じるとこの証になり、特に夜間に頻尿になりやすくなります。昼間は津液を全身に行き渡らせる機能の低下により津液が停滞し、むくみやすくなり、尿量はむしろ少なめです。体を温めて腎陽を補う漢方薬を使います。白内障の進行とも関連が深いと思います。

次回は、東洋医学的見地から頻尿の問題をお話ししたいと思います。

<余談>

なぜオシッコと言うのか? 「お」は接頭語、「し」は小便を意味する女性語「しし」または擬音語「しーしー」、「っこ」は行為を表わす接尾語「こ」。「かけっこ」や「にらめっこ」の類です。「常用字解」によると、「尿」は立って小便をしている人を横から見た形とか。古くは、ゆばり、ゆまり(湯放)、いばりとも。「いばりせしふとんほしたり須磨の里」。寝しょんべんした蕪村の照れ笑い? 「あんた、小水(ょうすい)したの!」と叱りつけられたのかも?

「月に向かってオシッコ」は、野心がデカイだけで、一人前になれないアカンタレを嗤ったもの。そんな輩にかぎって、「蛙のつらに小便」などと開き直り、シャーシャーとしていますね。

ところで、「ミミズにオシッコをかけるとオチンチンが腫れる」のは、ホントなのか迷信なのか? 医学的には良く分かりませんね (^^;

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