専門医コラム
2016/04/12
トランス脂肪酸、日本では低い危険性への意識!
欧米では、心疾患のリスクを高めると言われている工業的に作られているトランス脂肪酸。先進国でトランス脂肪酸の含有量の表示が義務化されていないのは日本だけとも言われています。
トランス脂肪酸とは
トランス脂肪酸(トランスしぼうさん、trans fat、trans-unsaturated fatty acids、TFA)は、構造中にトランス型の二重結合を持つ不飽和脂肪酸。トランス型不飽和脂肪酸(トランスがたふほうわしぼうさん)、トランス酸(トランスさん)とも呼ばれます。トランス脂肪酸は、天然の植物油にはほとんど含まれず、水素を付加して硬化した部分硬化油を製造する過程で発生するため、それを原料とするマーガリン、ファットスプレッド、ショートニングなどに多く含まれるほか、これらを原料とするパン、ケーキ、ドーナツ、クッキーといった洋菓子類、スナック菓子、生クリームなどにも含有されます。一定量を摂取するとLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を増加させ心臓疾患のリスクを高めるといわれ、2003年以降、トランス脂肪酸を含む製品の使用を規制する国が増えています。
身体への影響
トランス脂肪酸摂取に伴うリスクとして指摘されているのは、主として虚血性心疾患(冠動脈の閉塞・狭心症・心筋梗塞)の発症と認知機能の低下です。以下、消費者庁の見解をご紹介します。
トランス脂肪酸の健康影響に関する最近の科学的知見 消費者庁・平成22年9月10日
- ●確証的な根拠(全て若しくはほぼ全ての研究で結果が一致している)・・・工業的に作られたトランス脂肪酸は、冠動脈性心疾患にかかるリスクを高める。冠動脈性心疾患につながるLDL(悪玉)コレステロールを増やすだけでなくHDL(善玉)コレステロールを減らす。こうした影響は過去に考えられていたよりも大きかった。
- ●おそらく確実な根拠(大多数の研究で結果が一致するが、一致しない結果もある)・・・工業的に作られたトランス脂肪酸は、冠動脈性心疾患による死亡、突然死、および糖尿病にかかるリスクや、メタボリックシンドロームと診断される内臓脂肪の蓄積(腹囲)・脂質異常(コレステロール、中性脂肪)、高血圧(血圧)、高血糖(空腹時血糖)の数値を高める。
- ●今後の課題・・・現在、WHOでは集団におけるトランス脂肪酸の平均摂取量は最大でも総エネルギー摂取量の1%未満と勧告しているが、摂取が高い人々のことを完全に考慮していないので、このレベルを考え直す必要があるかもしれないと認めている。このことは、人が食べる食品から工業的に作られたトランス脂肪酸を排除する必要性に十分つながる。
トランス脂肪酸について、中年〜老年の健康な女性(43〜69歳、米国)を対象とした疫学調査では、トランス脂肪酸の摂取量が多い群ほど体内で炎症が生じていることを示すCRPなど炎症因子や細胞接着分子が高いことが報告されています。これについて、研究者は動脈硬化症の原因となる動脈内皮での炎症を誘発している可能性を指摘しており、炎症因子についてはアトピーなどのアレルギー疾患へ悪影響をおよぼす疑いが提示されています。
またトランス脂肪酸の摂取量が多い場合に、不妊症のリスクが高まる可能性も指摘されています。現代の若い女性が好きな食べ物にトランス脂肪酸は多く含まれるわけですので、最近の不妊症の増加と関連が高そうです。
Chavarro JE, Rich-Edwards JW, Willett WC et al. "Dietary fatty acid intakes and the risk of ovulatory infertility" Am J Clin Nutr 85(1), 2007 Jan, pp231-7. PMID 17209201
日本の対応と規制
日本は欧米と違い規制が行われていません。数年前、トランス脂肪酸の規制問題が議論されたのですが、いつの間にか立ち消えとなってしまいました。
日本ではインターネット上で反対運動がなされているほかには、ごく一部の企業がトランス脂肪酸低減に取り組んでいる程度で、政府や地方公共団体、業界団体は特段の規制を行っていないのです。これは、公式には日本におけるトランス脂肪酸の摂取量は少なく、健康への影響は小さいと理由付けされています。しかし、反対に危険性を消費者に伝えることで、トランス脂肪酸の摂取に日本人が気をつけるようになるのは前向きに良いことだと考えるのですが・・・。
日本では厚生労働省が推進している保健機能食品がトランス脂肪酸商品を認可している事などがあるのも実情です。日本の役所の対応が遅さや政府の公式見解がどうあれ、自分の健康のためには、自己防衛をお勧めします!