専門医コラム
2016/05/29
眼と季節 陰陽五行説
眼と肝の関係を先日のコラムでお伝えしました。東洋医学の季節ではすでに春は終わり、初夏ですので、ややタイムラグがあったことをお詫び申し上げます。というのも、東洋医学では季節と身体の関わりを大事にするからです。
陰陽五行説
難しそうですね!? ”いんようごぎょうせつ” と読みます。
東洋医学では自然の現象を長い間の観察より5つの事象に分類して物事を考えてきました。この考え方を陰陽五行説といいます。時代によりその理論が細かい点で修正されてはいますが、あまりこだわらず全体をとらえることが東洋医学の理論の理解につながると思います。
五臓五腑という言葉を聞いたことがありませんか?
以下のような五臓を中心に人間の体は機能していると考えます。肝・心・脾・肺・腎で表されれます。西洋医学でいう肝臓・心臓…などの "臓器" とは異なり、その概念よりも広い機能をさしています。例えば五臓の肝は以下に述べるように肝臓のほか自律神経系まで含めた "概念" です。これは杉田玄白らがオランダの解剖書を翻訳する際に、漢方の用語を "無理に当てはめた" ために起こったことです。また、五腑の胆・小腸・胃・大腸・膀胱は五臓の働きを補佐する器官と位置付けられています。
春の特徴
その五行説でいうと春には肝が亢進しやすくなるといわれています。肝と眼が関連深いため、先日、春は眼のために特に注意が必要な季節であることを踏まえお伝えしました。肝は単に現代医学でいう血の貯蔵庫である肝臓をさすだけではありません。気を全身にめぐらす働きも担っています。西洋医学で言う自律神経の機能です。その肝が亢進すると、血が騒ぎ、のぼせやすくなります。顔では眼、粘膜である結膜やその周り、そして鼻の粘膜お充血しやすくなります。悪化した状態のところに春に多いスギ花粉や黄砂などが飛んでくると花粉症やアレルギー症状が強く出るのです。
ただ、自分が花粉症になっていると自覚している方は、意外と少なく、花粉症患者さんの全体の3割程度しか気づいていないと言われています。なんとなく身体の調子が悪い、頭が思い、火照る、と言った症状でお悩みの方はこの時期比較的大勢おられます。風邪が長引いていると思われている方も多く、こうした場合、当院では血液検査をお勧めしています。血液中の免疫グロブリンという成分を調べて花粉症が確定診断される方が多いです。
夏の特徴
高温多湿という日本の気候は、日本人の体質にも際立った特徴を与えています。島国の日本人は湿邪に侵されやすい。言いかえると水分の排泄が悪く、体内に余分な水分をかかえ込んでしまうことです。漢方ではこのような水分過剰な状態を水毒証(すいどくしょう)といいます。水ぶくれ、むくみやすさ、と捉えてもらうと良いかと思います。
夏の臓器は「心」。夏は心の不調を気を付けましょう。汗により体内の潤いやエネルギーを消耗すると、動悸や息切れ、疲労などの不調が。血もどろどろになり、血管のつまりや血流の悪さを引き起こすことに繋がります。
これから梅雨に入ります。梅雨が明けると本格的な夏の到来です。夏は太陽の季節。一年中で最も体力を消耗する季節となりますので、そのための身体の準備が必要です。
秋の特徴
秋は陽の気と陰の気が入れ替わる過渡期で、気候がだんだん寒くなって、日照時間が短くなります。葉が色づいて落ちるため、人々は心の中で物寂しさを感じ、情緒の不安定や感傷的になりやすい憂鬱な気持ちになります。これは乾燥しやすい大気も影響します。
秋の臓器は「肺」。肺の活動が一番活発になる時期です。そのために「肺」のサポートが必要となります。
肺は燥気(乾燥した空気、燥の邪気)の侵入に一番最初に反応する臓器です。肺の気血陰陽のバランスを保つことがこの季節を乗り切る一番の鍵となります。
冬の特徴
冬のような寒い季節には、気(エネルギー)は内に集まります。寒さから身を守ることのほかに、もうひとつ重要な目的があります。それは生命力を内に集めて、春や夏に消耗したものを回復し、各機能を修復して、つぎの季節へつなげていく重要な役割があるのです。
毎年、寒さが本格化する12月末ぐらいからインフルエンザが流行します。
秋からの乾燥により鼻内部などの粘膜が弱ったうえに寒さが加わった時期に
起こりやすくなるのです。
呼吸器系とほぼ同時期に悪化するものとして動脈硬化による心臓病があります。
寒邪により血管が収縮して血圧を上昇させ、血液循環が悪くなることが一因と考えられています。
心臓病の発生率は急激な温度変化に関係し、真夏と真冬に起こりやすくなります。
冬の臓器の『腎』が弱ると、お互いに弱め合う相克(そうこく)の関係でもあり夏の臓器である『心』がダメージを受けるのです。
五行説
(小太郎漢方製薬HPより)
東洋医学の基本となる考え方が「五行説」です。
万物を木・火・土・金・水の5つの要素に分類し、それらの関係を説いた理論です。この5つは、お互いに支配したりされたりして全体でバランスを保っています。その中でも代表的な関係が「相生(そうせい)」と「相克(そうこく)」です。東洋医学では、この五行説を人体の生理・病理に当てはめて応用してきました。
「相生」とは相手を生み育てる母子関係で、五行では木→火→土→金→水というサイクルを形成します。木が燃えて火がおき、火からできる灰が土を肥やし、土から鉱物(金)が生まれ、鉱脈から水が湧き出て、その水は木を育てるという具合です。
お互いに力を弱め合うことを「相克」と呼んでいます。「相克」は破壊のサイクルで循環するとされます。「木は土から養分を得る → 土は水の流れをせき止める → 水は火を消す → 火は金を溶かす → 金属は木を切る…」となります。相克の関係では、どちらの五行も弱くなります。剋す側の五行はやや弱くなる程度ですが、克される五行はかなり弱くなります。たとえば、「水」と「火」の関係では、「水」も「火」によって蒸発してしまうので、多少弱くなりますが、「火」は「水」によって消されるので完全に弱くなります。
次回は五行についてもう少し詳しく解説させていただきたいと思います。