専門医コラム

2016/06/25

避けるべき手術 腰痛、痔、白内障、緑内障など

「週刊現代」2016年6月25日号に掲載された記事を紹介します。

どうしても読者が飛びつきそうな『面白ネタ』が優先されている印象が拭えないのですが、以下、全文を掲載します。

「週刊現代」2016年6月25日号

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この痛みから早く逃れたいと思っている時、医者から「良くなるには手術するしかない」と言われ、信じてしまう。でもよくよく考えてください。その手術は本当に必要ですか。

■手術のせいでEDに!

尿が上手く排出できなくなる、一日に何回もトイレにいきたくなる頻尿などの症状が出る前立腺肥大症。55歳以上の男性のうち5人に1人が罹患しているとも言われ、一昔前は、手術で切るしか治らないと言われていた。だが、それはもはや古い話だ。

泌尿器科を持つ楠医院(東京・板橋区)の板倉宏尚院長が言う。

「前立腺肥大症という同じ病名がついていたとしても、各々の年齢も違えば、体つきも違いますし、症状も違います。その人にあった治療が必要になってきます。当然、すべての人に手術が必要というわけではありません。重度でなければ、薬で十分治療することができます。

もちろん、手術にはリスクがあります。手術による出血や、おしっこの通り道に細菌が入り感染症を引き起こすこともある。また、前立腺は生殖器でもありますから、逆行性射精障害やEDになってしまうこともある」

さらに医師であり医療ジャーナリストの富家孝氏は、こんな危険性もあると指摘する。

「前立腺肥大の場合、医師は前立腺がんかどうかを調べたがるので、細胞を採取して調べる生検をすすめます。生検では、十数ヵ所、前立腺に針を刺して細胞を採るのですが、これが危険なのです。

出血しやすい上、尿が出にくくなって腎不全を起こす可能性がある。現に、私の知人も前立腺肥大で生検を受けた後、腎不全になり高熱にうなされ死を覚悟したそうです」

医者にすすめられるまま手術を受けたら、さらに症状が悪化することがある-その最たる例が腰痛だ。

前出の富家氏が語る。

「私は長年、脊柱管狭窄症と椎間板ヘルニアによる腰痛に悩まされてきました。痛くて歩くのもままならない状態でしたが、手術はしたくなかったので放置してきました。なぜなら腰の手術は成功率が低く、症状がさらに悪化する恐れがあり、再手術する人が多いと聞いていたからです。

ある病院の整形外科医は、『良くなりたかったら手術をするしかないですよ』とすすめてきましたが……」

60歳以上で、腰痛に苦しんでいる人は、日本全国にごまんといる。だが、治療のため腰の手術を受けた人からは「手術しなければよかった」、「手術前よりも痛みがひどくなった」という声が多く上がっている。富家氏が続ける。

「今は腰を伸ばすマッケンジー体操や関節の動きをよくするAKA-博田法といったマッサージをすることで、痛みを緩和しています。医者の言う通りに手術をせずに本当によかった。私の知人は脊柱管狭窄症のため、一時5mも歩けませんでした。でも手術はせず10年間、ストレッチなどの保存療法を行っていたところ、不思議なことに痛みへの意識がなくなり、79歳の今は毎日元気に歩き回っていますよ」

医療ジャーナリストの田辺功氏も「ほとんどの腰痛は、手術では治らない」と断言する。

「腰痛持ちの人がMRIやX線写真を撮ると、異常が見つかる場合が多く、医者は手術をしたがるのですが、実は腰痛の原因の8割は『不明』と言われているように、腰を手術したからといって必ずしも治るわけではない。姿勢やバランスなどに加え、精神的なものまで原因は多岐にわたっている。だから患者は、整形外科で手術してもらっても効果を感じられず、整骨院やカイロプラクティックに殺到するわけです」

原因が分からないのにもかかわらず、なぜ医者はメスを入れたがるのか。

「彼らは彼らなりに先人たちからそう教えられてきたので、どの医師も手術をすることが正しいと信じ込んでいるのです。もちろん前提として『手術は儲かるから』という理由もある。でもそんな理由で手術をされたら患者はたまったもんじゃないですよね」(田辺氏)

腰痛同様に、年齢とともに増えてくるのが変形性膝関節症、いわゆる「膝痛」だ。病院に行くと、「手術をすればあっという間に痛みが消えますよ」、「楽になりたいなら手術しかない」などと甘い言葉をささやく医者がいるが、実はここにも「落とし穴」が待ち受けている。

整形外科医の寺尾友宏氏が言う。

「膝の手術は人工関節を入れるのが主ですが、医者として正直な感想を言わせてもらうと、人工関節にしなくてもいいのに、わざわざ手術を受けている人が多い。人工関節は人間の体と違って、自ら修復する機能はありません。手術後は摩耗していくだけ。一度人工関節にすると、後戻りはできず、もし違和感や痛みが出ても、一生それを抱えて生きなければならないリスクがあります。

人工関節は、金属とプラスチックで出来ていますが、金属と生体との境目は常にトラブルの元でもあります。4~5年経ったら緩んできてしまい、痛みが出るんです。歩くことも嫌になり、最終的には車椅子生活になってしまう人もいます」

変形性膝関節症は、痛み止めを飲む、湿布を貼る、ヒアルロン酸注射を打つなど、治療の選択肢が少ない。そうなると、医者も「痛くて我慢できないなら手術しましょうか」という話に、飛躍してしまう。

「高額療養費制度を使えば10万円ほどで済んでしまうので、『だったら手術しようか』と思いがちですが、先ほども述べたように、将来的にリスクがあることを理解していない人がほとんどです。

人工関節は最後の最後の手段であり、その前に、機能回復をするためのリハビリを徹底的にやれば、痛みが引く可能性はあります。でも、今の医療制度では、電気を当てたりすることくらいしか日常的にはしてくれない。リハビリは儲からないので、医者としてはやらせたくないのです」(寺尾氏)

だが、近年は手術やリハビリ以外の画期的な治療法が開発されつつあるという。

「ここ最近は、『軟骨細胞シート』と呼ばれる、自分の細胞を取り出し、培養して膝に注入する治療法が注目されています。関節のメカニズムを活性化してくれて、膝の自然治癒力を増幅し、症状を緩和してくれるのです。この方法は、リスクもなく60代以上の方でも十分効果を発揮します」(寺尾氏)

■五十肩は手術では治らない

40代~50代に多い、関節リウマチ。この病気もやはり「人工関節の手術はやめたほうがいい」という。医療経済ジャーナリストの室井一辰氏が言う。

「人工膝関節を入れると、静脈血栓塞栓症(足にできた血栓がもとで肺の血管が詰まる)になるリスクが高まります。そのため、抗血栓薬を一生、飲み続けなければならず、若い人にとってはかなり負担になるでしょう」

腕が上がらなくなる五十肩(肩関節周囲炎)は辛い。だが、いくら痛いといっても、医者がすすめるままに手術をするのはこれも危ない。

「五十肩もそもそもの原因が分かっていない病気です。関節鏡で骨を削る手術をするのですが、根本的な治療にはなりません。五十肩も肩だけでなく、首やその周りの筋肉など様々な要因が複雑に絡み合って痛みが出ているので、一部を手術しても効果が薄いのです。

特に60歳以上の方は、わざわざ体に負担のかかる手術より、ストレッチや半身浴をして温めるなど、保存療法のほうが良いでしょう」(前出の室井氏)

物を食べる時に顎が痛くなったり、口が閉じられなくなったりする症状が出る顎関節症は、手術が必要なのか。

「手術で顎関節症が治ったというエビデンス(効果があることを示す証拠)は一つもありません。体全体のバランスがずれている場合が多く、手術で噛み合わせを治したとしても、完治は難しい。それだったら、痛みが出ない程度に顎の体操をしたりして、うまく付き合っていくほうがいいでしょう」(前出の室井氏)

女性の中には、足の親指が曲がり歩くたびに痛みを伴う、外反母趾に悩む人も多い。「靴を履くたびに、脳天まで響くような痛みがある」、「出かけるのが憂鬱に感じる」と、医者に言われるまま「楽になるなら」と手術をする人がいるが、より悪化するケースは後を絶たない。

■白内障手術で失明の危険性も

外反母趾・浮き指研究家で接骨院を営む、笠原巖氏は「手術をする前に、もう一度よく考えてほしい」と語る。

「手術を考えている人の多くは痛みで苦しんでいます。とはいえ、変形はわずかにもかかわらず、痛みのために手術をしてしまい、かえって後遺症に苦しんでいる人も多い。『痛い時は曲がる時』であり、炎症を起こしている時期こそテーピングなどで固定する保存的療法を行うと、痛みはなくなります。痛みが止まってから手術を考えても遅くはありません」

眼のレンズにあたる水晶体が白く濁り、ものが二重にぼやけて見えるようになる白内障。著書に『緑内障・黄斑変性症・糖尿病網膜症を自分で治す方法』などがある、日本綜合医学会理事長で回生眼科の山口康三院長は、白内障の手術に対して、こう警鐘を鳴らす。

「著しく生活に支障が出る場合を除き、基本的に手術は避けるべきです。リスクとして、もっとも考えられるのが、水晶体を取り除き、人工レンズを入れる時に、レンズを支える水晶体の後ろの膜が破れ、眼球の中の硝子体が流れ出してしまうこと。最悪、失明することもあります。

腰や膝の場合は補助器具がありますが、眼はもし失敗したら取り返しがつかない。その認識が薄い患者さんがいますが、安易な気持ちで手術をするのはやめたほうがいい」

白内障より手術の危険度が高いのが緑内障だ。

「緑内障手術はそもそも眼圧を下げるためであって、欠けた視野が回復するわけではありません。緑内障は、眼球の眼圧が高まり視神経を圧迫することで視野障害が起こると考えられていますが、日本人の緑内障患者の7割程度は正常眼圧です。

それでも医者として傍観するわけにはいかず、少しでも回復する可能性があれば、細菌が侵入して失明するリスクがあったとしても、手術をすすめてくる場合があるので、しっかり自分で判断してください」

さらに山口院長は「緑内障や白内障を治すのにもっとも効果的な方法は、手術ではなく食事療法や生活習慣を改めることだ」と言う。

「たとえば白内障で言えば、水晶体の濁りを引き起こす最大の原因は活性酸素です。本来は水晶体の中に含まれるビタミンCにそれを消去する働きがありますが、そのビタミンCが不足すると、活性酸素が大量に生じて視力が悪くなる。食生活、生活習慣を変えなければ、たとえ手術で視力が回復したとしても根本的な解決にはなりません」

■身体がボロボロになる

日本人の3人に1人は悩んでいるといわれている痔も、手術しないほうがいい病気だ。

「特にイボ痔は切らないと治らないと思っている人がいるかもしれませんが、今は薬で十分治せます。ALTAと呼ばれる注射療法という選択肢もある。痔核を切り取る手術と違って痛みを感じない部分に注射するため、患者の身体的・精神的な負担が軽減される。また、入院期間も短縮でき、社会生活への早期復帰も可能です」(医学ジャーナリストの松井宏夫氏)

女性を深く悩ませる子宮筋腫。医者から手術をすすめられたが、手術をせずに完治したというケースもある。埼玉県在住の佐藤智子さん(仮名・42歳)の話。

「子宮筋腫が大きくなって握り拳ぐらいの大きさの筋腫が二つ、小さめの筋腫が三つできました。不正出血や生理痛に悩まされ、医者から『手術で子宮を全摘するよう』すすめられましたが、体にメスを入れるのが嫌で……。しかも専門書を読むと、子宮を全摘すると、ホルモンバランスが崩れ、更年期障害になる可能性があると知ったんです」

佐藤さんは、自分で全摘手術以外の治療を探し、子宮動脈塞栓術(UAE)という方法を選んだ。

「子宮筋腫は子宮動脈からの血液を栄養にして大きくなります。そこで子宮動脈に塞栓物質を詰め込んで、子宮筋腫に栄養が行かないようにして、筋腫を小さくするのです。

この治療法は保険が効きませんが、数日の入院で済むし、全摘手術に比べると体の負担はほとんどない。子宮筋腫の大きさは1年後に半分ぐらいに縮小。その後、年を経るごとに小さくなり、わずか数mm程度の大きさになりました。症状もなくなったので、いまは病院にも通っていません」

子宮の病気は非常にデリケートだが、月経痛や排便通の症状が出る子宮内膜症も手術の必要はないと、医療ジャーナリストの増田美加氏は語る。

「手術をしたからといってその後、子宮内膜症が一生発症しないということはありません。手術後、最初の1~2年は問題なくても、再発するケースが多い。すぐに妊娠・出産を考えていない場合は、体に負担をかけて手術するよりも、基本的には低用量ピルなどのホルモン剤でコントロールしていくのが一番望ましいですね」

尿漏れなど過活動膀胱に悩まされている人も多い。女性の場合は、更年期以降、特に閉経したあとに骨盤底筋群が緩むことが原因で起こる。

「かつては開腹をして、膀胱頸部の両脇と骨盤筋膜の腱弓を縫い縮め、固定する手術が行われていましたが、近年では、TFS手術といって、メスを使わずに、腟内から針を刺してテープ薬剤を移植して子宮や膀胱の筋膜や靭帯を補強するので、1時間半程度で終わり、日帰りが可能です。

自由診療のため、行える医師や施設は限られていますが、開腹手術をすすめられたら、他の病院を当たってみてもいいかもしれません」(増田氏)

腰痛、膝痛、内臓疾患……自分が弱っているとつい医者のことを崇め「楽になれるなら……」と手術に飛びついてしまう人がいるが、ちょっと待ってほしい。医療ジャーナリストの伊藤隼也氏はこう言う。

「日本人は不思議なもので、車や趣味にはこだわる人が多いのに、自分の身体のことになると、どうも他人に任せてしまうところがあります。

頭に置いておいてほしいのは、身体にメスを入れれば、何かしら弊害が出るということです。手術は常に、リスクと等価交換の関係にあるのです。

特に高齢者の場合、ある1ヵ所を手術で治しても、他の部分は古くなっているわけですから、むしろ全体のバランスが崩れ悪化することもある。自分の身体に対して、最終的に責任を持てるのは自分しかいないのです」

「その手術は本当に必要か?」と思ったら、セカンドオピニオンなど、複数の医者に意見を聞き、自分で判断することが求められている。

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どのような治療にも合併症の可能性があることは当然ですので、一読すると一般の方が頷きそうな記載の仕方はさすがですが、特に眼科部分に関しては、次回、眼科専門医としての意見を述べたいと思います。

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