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緑内障の ”保険診療での治療目標” は、眼圧を下げることです。そのための第一選択薬として、プロスタグランジン(PG)関連薬が処方されることが多くなりました。PGの各種誘導体が緑内障治療薬として開発されています。おもに、ブドウ膜強膜流出路からの房水流出を促進することで眼圧を下げます。単独で用いるほか、作用が違う別系統の点眼薬と併用することも多いです。
緑内障の原因は眼圧だけではない可能性と対応方法は、こちらのYouTube をご参照ください。
プロスタグランジン (prostaglandin, PG) は、プロスタン酸骨格をもつ一群の生理活性物質のことです。アラキドン酸から生合成されるエイコサノイドの 1 つで、様々な強い生理活性を持ち、PGとトロンボキサンを合わせてプロスタノイドと呼ばれます。
以下に現在日本で販売されている主な緑内障に対するPG点眼薬を紹介します。緑内障の治療を受けている方は、以下のどれか、あるいは一本でPGと他の作用を合わせ持った「合剤」を処方されていることが多いです。
PG関連薬
レスキュラ:プロスタグランジンF2α誘導体のイソプロピル ウノプロストン
キサラタン:プロスタグランジンF2α誘導体のラタノプロスト
トラバタンズ:プロスタグランジンF2α誘導体のトラボプロスト
タプロス:プロスタグランジンF2α誘導体のタフルプロスト
ルミガン:プロスタノイドF2α類似のビマトプロスト
PG関連薬の副作用として目の充血のほかに、まつ毛が長くなる、虹彩やまぶたの色素沈着など美容上の問題があります。メラニン色素が徐々に増加し、目の周りの皮膚の色がくすんだり、虹彩(茶目の奥)の色調が変わってしまうことがあります。茶目の日本人では目立たないとされますが、気になるときは担当医と相談してください。
しかし、前回の眼瞼下垂との関連も含め、PGには重要な全身への影響があります。
PGは、人間の体の中の様々な組織や器官に存在し、色々な役割を担う生理活性物質(ホルモン)です。具体的には、血圧低下作用や筋肉の収縮作用、黄体退行作用、血管拡張作用などがあります。PGの多様な働きが注目され、古くから薬としての活用法が研究されてきました。現在では、人工的に特定の作用を発揮するPG製剤が作られるようになり、眼科分野ではその眼圧下降効果が注目されて緑内障の代表的治療薬となりました。
女性の体内では、生理周期に合わせてプロスタグランジンが分泌されています。子宮内膜から分泌され、子宮収縮を促して経血をスムーズに体外に出す役割があるので、女性の月経に必要不可欠なホルモンだといえます。ただ、プロスタグランジンには人間が痛みを感じる閾値を下げて痛みを感じやすくさせる作用と炎症を引き起こす作用があります。生理前にプロスタグランジンの分泌量が増えますが、過剰分泌すると、頭痛や腰痛、だるさ、吐き気など生理痛が悪化するのです。
逆にプロスタグランジンの分泌が少なければ生理痛がほとんどないこともありえます。
プロスタグランジン製剤は、その作用によって10種類以上に分かれます。そのなかでも妊娠・出産に関わるのが「プロスタグランジンE2」と「プロスタグランジンF2α」の2つです。どちらも子宮収縮を促す作用があるので、分娩をスムーズに進めるために活用されます。
ここでお気づきかと思いますが、緑内障薬として使われるPG点眼薬は全て「F2α」由来です。そのため子宮収縮作用、すなわち流産のリスクが高まるため、妊婦には使用しないように薬の注意書きに記載されています。
では妊娠していなければ使用しても問題ないのでしょうか?
女性の体の悩みには、PGが関わっていることが多くあります。実際に、生理痛がひどいときはPGの分泌を抑える薬が処方される場合もあります。過剰に分泌されると体調を悪化させてしまうPGですが、出産時には力を借りることもあるかもしれません。
PG点眼薬を長く使用している方には、人工的に眼球や瞼にPGで慢性炎症を起こすことで先に述べたような目の充血のほかに、まつ毛が長くなる、虹彩やまぶたの色素沈着という症状以外に、慢性的な頭痛や生理痛の要因となっている場合が少なからずあるようです。
実際、PG点眼薬を中止してみると頭痛が治ったり、頭が重くて肩がこりやすかった症状が軽快することを患者さんで良く経験します。セデスやバファリンなどの多くの痛み止めや頭痛薬はPGを抑えて鎮痛効果を得ます。
PGは「炎症物質」であり「痛みの原因物質」なのです。
長期にPG点眼薬を使用している方に、私がむしろ眼瞼下垂を生じている患者さんが多いと感じているのは、慢性炎症がまぶたを引き上げる眼瞼挙筋に多大な負荷をかけている可能性を疑っています。
緑内障は日本で失明第一位の疾患で、PG点眼薬を使用されている患者さんは莫大な数に上ります。ぜひその作用を理解して上手に使用下さい。
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