専門医コラム

2015/09/20

牛乳と骨粗鬆症

牛乳

骨粗鬆症は牛乳をたくさん飲む欧米諸国に多い

名古屋、栄、錦にある名古屋院周辺は飲食店が目白押しです。日曜日の本日も大勢の方が食事を楽しまれていますね!

外食するとどうしても乳製品摂取量が多くなります。学校給食や病院食でも牛乳を出される事が多いですが、しばしば「骨を丈夫にし、骨粗鬆症を予防する」ために牛乳を毎日飲む事を推奨されます

それでは、乳・乳製品をたくさん摂る西洋人には骨粗鬆症や骨折が少ないのでしょうか? 大方の予想に反して、西洋人は日本人に比べて大腿骨頚部骨折(原因は骨粗鬆症)を起こしやすいのです。例えば、35歳以上の女性の大腿骨頚部骨折の発生率はイギリスのオックスフォードで人口10万対202ですが、鳥取県の同年齢の女性の発生率は半分以下の90なのです。

Ross PD, Norimatsu H, Davis JW, Yano K, Wasnich RD, Fujiwara S, Hosoda Y, Melton LJ 3rd. A comparison of hip fracture incidence among native Japanese, Japanese Americans, and American Caucasians. American Journal of Epidemiology 133 :801-809, 1991.

Yamamoto K, Nakamura T, Kishimoto H, Hagino H, Nose T. Risk factors for hip fracture in elderly Japanese women in Tottori Prefecture, Japan. Osteoporosis International 3 (Suppl 1):48-50, 1993.

牛乳と乳がんの関連性の高さ(それでも牛乳飲みますか? 子供の近視の原因?)は知られるようになってきており、コラムでも以前取り上げました。ところが、骨粗鬆症予防にはそれでも牛乳が有効なのではないか、との質問を頂いておりますので今回は医学データを基にご説明したいと思います。

カルシウム摂取量の多い国ほど骨粗鬆症が多いというカルシウム・パラドックスを初めて報告したのはハーバード大学のヘグステッド(Hegsted DM)です。彼が取り上げた国は10カ国に過ぎないですが、アメリカやニュージーランド、スウェーデンなどのカルシウム摂取量の多い国(=乳・乳製品の消費量が多い国)では、シンガポールや香港などの摂取量の少ない国に比べて大腿骨頚部骨折が非常に多いことが報告されました(下)。横軸がカルシウム摂取量(mg/day) です。

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Hegsted DM. Calcium and osteoporosis. Journal of Nutrrition 116: 2316-2319, 1986.

アベロウ(Abelow BJ)は、16カ国の動物性タンパク質およびカルシウムの摂取量と50歳以上の女性の骨折発生率との関係を調べました。その結果、カルシウムの摂取量および動物性タンパク質の摂取量と骨折の間に強い正の相関関係が認められました(下図は動物性タンパク質の摂取量(横軸、g/day) と骨粗鬆症の関係が示されています)。つまり、肉や乳・乳製品をたくさん摂取している国ほど骨折が多かったのです。アベロウは、カルシウムをたくさん摂取しても、動物性タンパク質の摂取量が多いと酸・塩基平衡が酸性側に傾き、骨のカルシウムが溶け出して尿中に排泄されてしまうから骨粗鬆症になるのだと考えました。

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Abelow BJ, Holford TR, Insogna KL. Cross-cultural association between dietary animal protein and hip fracture: a hypothesis. Calcified Tissue International 50: 14-18, 1992.

(次回に続きます)

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