専門医コラム

2016/12/28

冬、網膜静脈閉塞症③

大学病院

症状が落ち着くまでの治療

静脈閉塞が起きた直後(急性期)には、まず、閉塞した血管に血流を再開させるための処置がとられます。血管強化薬や網膜循環改善薬(カリジノゲナーゼ)などが用いられます。閉塞した静脈が完全に再疎通することは稀ですが、閉塞が軽い場合には、血流障害の影響を少なくできます。

これに引き続き、黄斑浮腫のために視力が低下しているケースでは、浮腫をとる治療に入ります。浮腫は自然に治る傾向があるものの、長引いて嚢胞様黄斑浮腫に進行すると視力回復が難しいので、以下のような方法で早期の浮腫改善をめざします。

黄斑浮腫に対する三つの治療法

1)  眼球への薬物注射

抗VEGF薬という薬を眼球に注射する方法です。浮腫を抑える効果が高く、2013年に保険適応を受け多用されるようになりました。

抗VEGF薬とは

組織の血流が不足すると、そこに新しい血管を作るのを促す血管内皮増殖因子(VEGF)というサイトカイン(生理活性物質)が産生されます。この物質には血管壁から血液成分が漏れやすくする作用もあるため、黄斑浮腫の原因となります。VEGFの働きを抑制する抗VEGF薬を眼球に注射すると、浮腫が改善します。

利点と注意点

浮腫に対して速効性があり、患者さんの負担が少ない治療法です。ただし薬の効果は数週間で途切れてしまうので、高い頻度で浮腫が再発します。再発を抑えるため1年以上にわたり経過観察し追加投与が必要で、最適な方法(注射の頻度や、いつまで続けるのか)もまだ十分わかっていません。薬が高価なことも難点です。ごく稀ですが緊急治療が必要な眼内炎が起こる可能性もあります。また、脳梗塞や心筋梗塞のある患者さんには使えません。

トリアムシノロンの注射

抗VEGF薬とは別に、トリアムシノロンという副腎皮質ホルモン製剤を用いる場合もあります。トリアムシノロンは炎症を抑える強い作用があり、眼球に注射すると黄斑部網膜の血管や網膜細胞の炎症が抑えられて浮腫が引きます。ただし網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫へのトリアムシノロンの使用は正式に認可された使用法ではないため、医師から副作用(例えば緑内障や白内障になりやすくなったり、眼内炎が起きることもあること)などについて詳しい説明を受け、納得したうえで治療が始まります。

レーザー光凝固術で黄斑浮腫が消失した例
70歳で高血圧と脂質異常症がある女性です。術前の視力は0.07で、OCT*にて嚢胞様黄斑浮腫がみられます。レーザー光凝固術により視力は0.6に回復し、OCTでも黄斑浮腫が消失したことがわかります。

*OCT: 光干渉断層計という画像診断の方法。網膜の状態を断層像(輪切りにした状態)ではっきりと確認でき、黄斑浮腫の有無や治療効果の判定に役立ちます。

2)  レーザー光凝固術

浮腫が起きている部分に向けて瞳孔からレーザー光を当て、網膜を凝固します。すると、網膜の中に溜まっていた血液成分が吸収され、浮腫が改善します。治療法としての歴史が長く、技術的に確立されています。

ただ、網膜の出血や浮腫が強すぎると効果が弱くなります。それをカバーするためレーザーを強く当てることもできますが、正常な網膜へのダメージが懸念されます。ですから、前記の薬物治療後、または併用して、出血や浮腫が少し引いてから行います。

3)  硝子体手術

硝子体は、眼球内部の大部分を占める卵の白身のような無色透明の組織です。手術でこの硝子体を切除し人工の液体に置き換えると、浮腫が改善しやすくなります。

視力が大きく低下している場合、この手術によってかなり改善することがあります。また、他の治療法に比べると浮腫の再発が少ない傾向があるので、再発を繰り返して少しずつ視力が低下していくような場合も、この手術を検討します。

手術の安全性は高くなっていますが効果のない場合もあり、合併症が起きる可能性もゼロではありません。先に挙げた薬物療法が普及してきたこともあり、以前ほど積極的には行わなくなってきています。

病状や患者さんの希望で治療法を選択

これら三つの治療法にはどれも長所・短所があります。一般的には、視力が良く保たれている段階では患者さんの負担が少ない薬物治療やレーザー光凝固術、視力が悪い場合には硝子体手術を選択する傾向があります。複数の治療を組み合わせて行うこともあります。

どの治療法もその効果は個人差が大きく、どんな患者さんに、どの段階で、どの治療を行うのがよいのか試行錯誤の状況ですが、治療法が増えたおかげで視力の予後は確実に向上していて、静脈分枝閉塞症の患者さんでは実用的な視力を保つことが多くなってきています。

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